かづきメイクインストラクター養成講座にて「衛生学・細菌学」を担当くださっている感染症の専門医 藤井先生に、
新型コロナウイルスの感染対策法や過ごし方をお聞きしました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界レベルで従来の人の営みを大きく変えてしまいました。
日本では、厚生労働省から、身体的距離の確保、テレワーク、不要不急の移動や三密の回避、マスクの着用と手洗い・・・など
「新しい生活様式」の実践例が公表されました。
ウィズコロナ(With Corona)とは、コロナウイルスと“共存”していく意味ですが、
「新しい生活様式」は、感染要因を極力“排除”することに他なりません。
“排除”の営みを続けながら、“共存”を目指すわけです。矛盾しているようですが、医療ではこれを実践し続けています。
我々を取り巻く環境は微生物に溢れ、自らの体内には微生物の塊を宿し、共生しています。
しかしある微生物がひとたび人体に牙をむき、病原性をもたらした場合には、医療はその“排除”に向かいます。
医療が“病原性微生物の排除”に成功することは実際には少なく、問題ない程度にその毒性や数を減弱させることで
満足する結果(治癒)を得るのです。
そもそも微生物や感染症が人の手で根絶されること自体、極めてまれです。
数少ない例外は天然痘であり、不顕性(症状がない)感染が少なく、ヒトにしか感染せず、有効な治療法やワクチンが存在した、
という条件が揃ってはじめて根絶が可能でした。その意味で新型コロナウイルスの早期の根絶は、絶望的と思われます。
今後数年から数十年は、ウイルスが弱毒化することはあっても、地上から消え去ることは期待できないでしょう。
世界中の医療者は、それを知りすっかり落胆しているかというと、そうでもありません。
感染を恐れ人との接触を避ける・・・医療ではそれが許されない場面が数多く、正直落胆している暇さえありません。
しかしながら、感染源と感染経路を断ち、感染症を制御する方法を知っています。
それらが、標準予防策であり、空気・飛沫・接触などの感染経路別予防策です。
ときに不意打ちに遭い、院内感染なども起こりえますが、総じて現代の医療現場では、“感染要因の排除”に向けた
細心の営みである感染対策をやめることはないでしょう。
初対面時から、“従来の標準予防策+飛沫予防策”が“ウィズコロナの時代の新しい標準予防策”として要求されています。
そのためのマスクやシールドなど個人防護具の準備と、手指衛生は重要です。
手指衛生は、他者を感染症から守り、自らを感染症から守るための手段です。
咳エチケットとは、飛沫から相手を守るためのマナーです。
真面目さと思いやりの発露と結晶が、種々の感染対策であり、ウイルスとの“共存”への道しるべになります。
自分が感染することを恐れる前に、もし自分が感染していると仮定したとき自分が他者に感染させない技術を覚え、それらを習慣化しましょう。
やがてそれらが感染しない技術と思慮深さにつながります。
ウィズコロナの時代、ウイルスに立ち向かう少しの勇気と覚悟をもち、個人防護具という武器を携え、“感染要因の排除”の営みを続けながら、
感染者を含めた他者への思慮を忘れず、前に進みましょう。
そうすれば根絶は不可能でも、近い将来このウイルスに打ち勝つことができるでしょう。
春日部嬉泉病院 内科医長
藤井 達也(ふじい たつや)先生
1989年防衛医大卒業。同医大、自衛隊中央病院内科後、九州大学心療内科にて研修。1992年第1次カンボジア派遣施設大隊衛生班医官等を経て、2004年第3次イラク復興支援群衛生隊診療班長。自衛隊中央病院・三宿病院内科。2013年より河北総合病院にて安全感染管理室長・感染症科部長、副院長を務め、2018年6月より現職。